黒ヤギさんからの手紙
太田公士(9月30日)

   黒ヤギさんから お手紙ついた    
   白ヤギさんたら 読まずに食べた
   仕方がないので お手紙書いた
   そっちの手紙の ご用事なあに

 上の歌詞は、童謡の「ヤギさんの手紙」の一節である。手紙の受取り主が紙の好きなヤギだけに、手紙を食べちゃったという可愛い歌詞である。この歌詞では、うっかり手紙を食べちゃったので、手紙の内容を問い合わせるということになっている。そして二番の歌詞では、白ヤギさんから受け取った返信の手紙を、今度は黒ヤギさんがまたまた食べてしまって、さらに「そっちの手紙の ご用事なあに」と問い合わせる。このまま行くと、永遠に「手紙の内容」は互いにわからずじまいとなる…というオチだ。
 つい最近、我々が日常的に使っている“eメール”について考えさせられる出来事があった。というのは、私が出したeメールの返事が待てど暮らせど帰ってこないのである。こちらは最短最速でブックカバーのデザインを仕上げ、PDFファイルを添付書類として先方に送ったのだが、その返事が来ないのだ。週が明けて、先方から「デザインまだですか〜?」の電話。
 先方のコンピュータの調子が悪く、送ったハズのeメールが着いていなかったのである。この類いの事故は、皆さんも多分にご経験されている所だと思う。この場合は、電話によって互いの誤解が解けたが、それほどの知己でない場合など、テクニカルな障害によってあらぬ嫌疑をかけられたり、取り返しのつかない問題に発展することだってあり得ることだ。納品がメールでやりとり出来るような場合はなおさらのことだ。
 eメールは、コンピュータ社会に必須の「手紙」である。「手紙」というのは、ヤギさんの手紙ではないけれど、一度出すと返事が待ち遠しいものだ。相手がどんな反応を示してくれるだろうか、問い合わせた内容はイエスなのかノーなのか、伝えた情報は確実に相手に伝わっているだろうか…と、様々に思い巡らすものである。アナログの手紙であろうが、eメールであろうが心理的な差はないと、私は考えている。手紙でもeメールでも、返信がないと、何か気に障ることでも書いたかなとか、私のことは無視されてるのかな、などと要らぬ憶測までしてしまう。
 「ヤギさんの手紙」の歌詞を笑うことは簡単だ。しかしこんな「事故」があった後だけに、私は「仕方がないので お手紙書いた」の一節は非常に大事な教訓をもっていると思ったのである。メールを受け取ったら「受け取りました」の返信を必ず出すことも重要だと思う。そのまた返信までは必要ないと思うが、大事な要件については返信メールを書く習慣を身に付けたい。また情報を提供してもらった場合などは「ありがとうございました」メールも習慣にしたい。

 私は一日に10本以上のメールを打っている。ほとんどが仕事の打ち合わせだが、使い始めるとこれほど便利な通信手段は他にない。eメールのメリットはまず、自分にも相手にも文字が残るということが挙げられるだろう。過去のメールに遡って情報の確認が出来る効用は大きい。第二番目のメリットは、発信する時間を選ばない点だ。電話だと相手をつかまえるのに手間取ったりするケースもあるが、メールではこちらが発信さえしていれば、相手の都合に合わせて受信してもらえるのだ。この場合、相手が頻繁にメールチェックしていることが前提となるが…。第三番目の効用は、メールだと、文字入力の過程で情報や頭の整理をできる点が大きい。電話では話しにくいことも、文章を推敲しながら的確な情報として発信できるという大きなメリットがある。また、世界の果てであろうとも、瞬時に送受信できる点も素晴らしい。
 デメリットはと言えば、まず、先に書いたような事故が起り得るというリスクも考えておかなくてはならないことだ。第二番目には、何でもかでもeメールで済ませてしまうと、人間的な触れ合いが希薄になるという点も考慮しなければならないだろう。第三番目にはeメールは「文字」によるコミュニケーションであるがゆえに、文章力の多寡によって十全に情報が伝わるか否かが分かれる。また相手に対面しなくても、決定的な厳しい文字を並べることも出来る。最近はメールマガジンなども大流行りで、知らない所から勝手に、土足で踏み込まれたようなメールがどんどん届くというのも、ちょっと困りものだ。また、意図的にコンピュータウィルスをまき散らしている輩もいるというから始末に終えない。
 こう考えてくると、メリット・デメリットが交錯しているのも事実だ。いずれにしても20世紀最後の人類が発明したコンピュータによる情報伝達という手段は、我々の生活と切り離せないものになっていることも片方の事実である。
 デジタル社会の進行は今後さらに進んでいく。しかし、人間の本性に由来する「アナログな部分」というのは決してなくなることがない。デジタルとアナログの微妙な関係を十分に考慮して、eメールと付き合って行きたいものである。

   ○○さんから メールが着いた
   この私ったら 間違って捨てた
   仕方がないので メールを書いた
   そっちのメールの ご用事なあに(「ヤギさんの手紙」のメロディーでどうぞ!)





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