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ビジネス書・コンピュータ書・語学書を3本の柱として、果敢な出版活動をしておられる明日香出版社は、版元として30年にもなるビジネス書の中堅出版社だ。同社の装幀の仕事をさせていただくようになってから何年も経つが、4年ほど前から明日香出版社さんの主催で、毎年夏に「デザイナー大会」というものが催されている。
これは、同社のブックカバーをやっているデザイナーが一堂に集まり、編集部の皆さんともども、よりよい本作りのための意見交換をしようという会である。我々にすれば“商売ガタキ”の皆さんと相まみえるわけで、なかなかユニークな会合ではある。今年も去る8月25日に恒例の大会が開かれた。今年のデザイナーの参加者は7名。
「今年は趣向を凝らして…」というので、参加デザイナーを対象にした「あみだくじ」大会が開かれた。一等は、な、なんと「豪華サイパン旅行へ、ペアでご招待!」というもの。当選の確率は7分の1と異様に高い。でも生まれてこの方、この類いのモノに当ったタメシがない私は、まあ無理だな!とタカをくくっていた。
壁面にあみだくじが張り出され、編集部の女性によって番号を記した「割りばし」を引かされる。私は「5」番。これがクジなのだと思ったら、この番号は「クジを引く順番」なのだという。手の混んだセキュリティがかけられている。で、5番目にクジを引く順番が回ってきたので、あみだクジの枠順も「5」番を指名した。
順番にアミダが開けられていく。1番から4番の方にはまだ当りは出ていない。もし当ったらどうしようなんて考えていると…、なんと本当に当っちゃったんです、サイパン旅行が! ウッソー! エーッツ、ホントー!と叫びたくなった。
「5」の「5」でゴーゴー。サイパンへGOGO、となってしまったわけだ。皆さんの羨望の眼差しを全身に感じた。なんとも晴れがましい。こういう時って、返す言葉に困るものだと体験してみて初めてわかった。
ただ感謝の言葉を述べればいいのに、私はこんなエクスキューズを出してしまった。
「実は…問題があるんです。今、家内が身重で、12月に子供が産まれるんです…。」
三ヶ月以内に行って下さい、と司会の方に言われたので、これはちょっと無理、というワケで咄嗟にこんな言葉が口をついて出てしまった。7人目の子供が産まれるということを白状したのは、ごく一部を除いて初めてに近い。親にもつい最近話したばかりで、ウチの社員の皆さんにもまだバラしていないというのに…。
「エーッ、何人目ですか?」
「実は…7人目なんです。」
「それは立派!」と明日香の石野社長。
「だったら三ヶ月と言わず、一段落するまで延期しましょう」と暖かいお言葉をいただいた。
帰宅して早速家内に報告した。いきなり、
「大変なことになっちゃったよ!」というと、家内は「エーッ、どこか倒産でもしたの?」と真っ青。
目録を見ながら、ことの顛末を聞いて少しは安心してくれたものの、「でも本当に大変ね! フーッ」と長嘆息ひとつ。
★ ★ ★
思えば、結婚してこのかた、家内のためにしてやったことは何ひとつない。洋服一枚、宝石の一つも買ったこともないし、好きな映画に行ったりする自由な時間すらなかった。彼女のためにしたことといえば、家内は年度末に「幼稚園の謝恩会」に参加することになっているのだが、この日だけは深夜まで私が家にいて子守りをする。ただそれだけである。実は内心「私の青春を返して!」と反逆されたらどうしようかと恐れている。
2年おきに子供が産まれ、家内にとっては子育てに終始する怒濤のような十三年間だった。「だった」ではなく、現在進行形ではあるが…。おまけに会社の経理もやってもらっているので、普通の主婦に比べると相当の負担をかけていることだけは間違いないだろう。家庭にあっては何でもかでも「お母さん、お母さん」。「お母さん、牛乳入れて」「お母さん、ウンチ出たー」「お母さん、今日の晩ご飯は何?」…。ついこの間もキレて、「お母さんはあんたがたの召使いじゃないんだからね!」と子供たちに吠えていた。
中1を頭に小5、小3、小1、5歳、3歳、そして今度産まれてくる新生児…。子供のことを考えると、二人だけで簡単にサイパン旅行に行くというワケにもいかない。親元を離れているので、近くに頼れる人もいない。でも、ここはひとつ、石野社長の温情に感謝して、何とか計画を立て二人で行ってみようかな。こんな機会でもなければ、二人で海外旅行をするチャンスなんて永遠に来ないかも知れない…などと思い巡らす。
家内の「フーッ」は言うまでもなく、乳飲み子や幼児を残して(誰かに預けて)海外旅行もないんじゃない! という「フーッ」である。
さあ、どうしようかな? 何だか、禅の公案を課せられた気分である。あちらを立てればこちらが立たず。まあ、じっくり考えてみたい。(顛末は、いずれこのコラムでお知らせします。そんな私的なこと、どうでもいいっか?)
週が明けて明日香の編集部長さんから「しっかりバースコントロールしなきゃ、だめじゃないですか!」との電話をいただいた。ついこの前、同じセリフを郷里の母から言われたばかりだったので、思わず苦笑してしまった。
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