太田公士(6月1日)
 長男坊がリトルリーグの野球チームに入っている。この前の日曜日、チームから依頼されて子供達を移動させるため、メンバーを数台の車に分乗させ、足立区にある野球場に出かけた。普段、狭いグランドでしか練習していないせいか、コーチが「これだけ広いんだから、もっと広がって広がって!」と声をかけても子供達はなかなか広がれない。「ここは東京ドームより広いんだぞ!」とコーチのゲキが飛ぶ。「は〜い」。頼りなげな返事。「もっと元気出して!」…。
 私は、こんなやりとりをほほえましく眺めながら、その広〜いグランドを一周してみた。グランド周辺の草むらには真っ赤に熟れた野イチゴが繁茂していた。数粒つまんでほおばってみる。ほんのり甘くてじゃりじゃりとした食感。芝刈り機の入らないグランドの一角はシロツメクサが一面に咲き乱れていた。こんな何でもない光景も私にはずいぶん久しぶり。
 何せ、土というものに触れることすら滅多にない。練習に励む子供達の掛け声を遠くに聞きながら、ふと地面に目を落とすと隊列をなした蟻がせっせと何かを巣へと運んでいる。「あっ、蟻だ」と思った。
 蟻は目が見えないのだという。ではなぜに隊列を作り、エサの在りかが分かるのかというと、なみ優れた嗅覚で仲間や餌を判別するのだという。つい数日前の児童向けテレビ番組『ムシマルQ』というので説明していた。グランドに行ったとはいえ、「運搬役」でコーチなどの役もない私は、しばらく蟻の生態を観察することにした。進行方向に石があっても前の蟻の後にひたすら追随する次の蟻。少し遠回りして石を避ければ…と思ったが、嗅覚が頼りなのだからこれもいたしかたない。DNAのなせるワザなのか、ただひたすらにせっせと運ぶ、運ぶ、運ぶ。ただ運ぶ。それが無性におかしくて、ついつい眺め入ってしまった。
 しばらくぼんやりとした時間を過ごした後、夕方に迎えにくることを告げて野球場を後にした。
 そして再度、野球場を訪れたのは丁度五時。前日の「昼過ぎまでは雨」との天気予報に反して、朝から曇り。午後からは雲一つない晴天! 子供達はみっちり七時間の特訓を経て、首筋や顔面、腕などが健康色に日焼けしている。コーチの皆さんの腕も顔も真っ赤! 朝方少し元気がなかった子供達だったが、みちがえるように活発になっていた。
 グランド前に整列し、帽子を取って「ありがとうございました」と一礼。きびきびとした態度がとても印象に残った。
 無事に子供達を集合場所まで運んで、私はお役御免となった。その後、夕食のための「買い出し」にスーパーマーケットへ立ち寄った。車を置いて自宅に戻る。買い物の入ったポリ袋を手に、マンションのドアをあけながら「私も蟻だな!」と、ふと自分の姿を思った。
 せっせと食べ物を自宅に運ぶ。ただ運ぶ。これまでに何度同じことを繰り返したことだろう。これまたDNAのなせるワザ?
 自分自身の姿を、昼間見た蟻と重ね合わせて苦笑する。食うために生きるのか、生きるために食うのか?
 どっちでもいいが、これからもまたせっせと運ぶのだろう。運び続けるのだろう。




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